再び葉山の佳子さんと。
御主人の義明さんが、海洋教育の講演のため出張中とあって、中学生になった帆南(ハンナ)ちゃんも一緒に会食。
今回のお泊りは、23日まで空に流れるオリオン座流星群を観よう!という思いもあってのことだったが、ただ見るだけじゃなく☆に願いをかけようと決まる。そしてハンナちゃんが、
「でも星が流れた瞬間、三回願いをかけないといけないんだよ」といったため、
「じゃ、星にお手紙を書こう!」となり、3人揃って紙に向かうことになる。
赤のマーカーを手にした私が、「お手紙だから、相手の名前を書かなくちゃね」といって、≪オリオン座・流星群様へ≫と書きはじめると、ハンナちゃんが、目をキラ星のように輝かせて青のマーカーを握る。オレンジのマーカーを手にした佳子さんが、
≪ステキな流星群様へ…≫と書きはじめると、ハンナちゃんが
「ママ、星にゴマすってる!」といって笑い、私も笑っていう。
「同じ願いを三回書いて、星が流れた瞬間、これを振って星にみせよう!」
それぞれが書き上げた紙を持ち、二階のベランダにある、物干しに出る。
「オリオンさーん」
でも…定刻なのに、ちっとも星が現れない。「物干しに願いを干しておこうか?」という軟弱な意見や、「オリオン・ビールを飲みながらの方がいいかも」という意見も出る中、正確な方角が定かでないことに気づき、調べた結果、東の地平近くと判明し、「もっと灯りの少ないところにゆかなくっちゃ」
まずは海野家の仕事場で、こんもり木が繁る、オーシャン・ファミリーのセミナーハウスにゆく。(もと網元の家で、ここだけ沖縄風)
入り口に置いてあった日本野鳥の会のフリーペーパーに、ふと目が止まる。クリムトか琳派のような表紙の絵は、故・加山又造によるものだが、その図象が銀河のようにも見えて、心のまま、ページを繰る。
目次には、私の好きな写真家の、岩合光昭さんや藤原新也さんのお名前が並んでいてハッとするが、その下に書かれていた言葉にも胸うたれる。
莫遂有縁勿住空忍
※あらゆる客観的存在には実体がなく、空である。しかし、一切は空であると空に執着すれば、本来の空ではない独善に陥ってしまう。執着する心がなければ、中道にあり、解脱道の人となる…
「佳子さん、これ貰っていい?」怪訝な顔の佳子さんからフリーペーパーを貰った私は、願い紙と共に、流星が観やすい場所に向かうべく、二人と一緒に近くの低山を登り始める。
素晴らしい夜だった。
暑くもなく、寒くもなく、どこからか花の香りが漂ってくるような夜、風に髪を揺らしながら歩く私は、一歩一歩、登る道が急であっても、空であっても、内なる喜びは失せることなく、むしろ増してゆくように感じていた。
低山の裏にある東側の麓に出ると、大小様々な家が並ぶ景色が目に飛び込んできた。地上に降りた流星群のような家々の灯りを目にした私は…あぁ、あの家にも、この家にも、「おかえりなさい」「ただいま」、さもない会話を交しながら年月を重ねてゆく、人の営みというものがあるのだなと…………
目新しい景色は、何ひとつなかった。しかし私の心の何かが明らかに変わりはじめているのだろう。ごく普通の、さもない景色を前にした私は、長年、自分の中にあって気づかなかった≪懐かしい景色≫に出会えたような気持ちになり、あたたかなものがこみ上げてきて、瞬間、涙ぐむ。
小さな空き地を見つけたハンナちゃんが寝転び、仰向けになって夜空を仰いだ。その後ろの草の上に、佳子さんと並んで座った途端、
「あ」
斜め後ろを、かけぬける星のように過ぎてゆく、真っ白な猫の姿を見る。
「今の見た?」
「え?」
それは私だけが見ることが許された幻だったのだろうか。しかし、その時の私の目には、猫であって他の何かでもあるような、まだ若猫といえる白の弾むような足取りが、確かに焼きつけられたのである…
結局、流星は見えずじまいだった。
オリオンの星たちは、より低い東の地平で燃えて溶け、彼方の空に消えたのだ。
「寒くなるから」
佳子さんに促されたハンナちゃんが、ちょっと膨れて立ち上がり、次いで立ち上がった私は、誰にも秘密にしておきたい願いを抱えたまま、よき隣人である母子と共に、やってきた道を帰ってゆく。
もしかすると…私たちはいいことと嫌なことを、日々選り分けて嘆いているけど…実は、すべては色濃く繋がっていて、自分が放った想いが、ブーメランのように戻ってくるだけのことかもしれないな…確かにすべての景色はたちまち過ぎてゆく夢かもしれない…であったら、私はその夢をいたずらに怖れるのではなく、楽しんでゆきたいな…
ふかふかの布団を敷き、二人とおしゃべりをしながら、心深くにあるものを感じ、与えられている≪今≫を抱きしめるように、眠りにつく。
つまり、オリオンへの手紙の返事は、見えない星を追って遊ぶ白猫一匹。
流星は見えなかったけど、いろいろ響きあってなんだか心キラキラ、とてもステキなことを知らされた気分の夜、皆さんもキラキラで、またね!